黄昏の刻

「おい、こらスザク！仮面を外すな、この馬鹿が！な、ナナリー！こんな所で寝てはいけないよ、何かあったらどうするんだ。いい子だからもう帰りなさい」

通夜のため、親族・・・では無い者ばかりだが、この場に残るものたちが体を休めるために、畳の上にはいくつもの布団が敷き詰められた。
お、男が沢山いる場所にナナリーが寝るだと！？
壁も何も仕切りがないこの場所にか！？
ありえん！
何かあったらどうする気だ！

「カレン！スザク！咲世子！ジェレミア！ナナリーを全力で守れ！」

世の男達の理想の具現化、世界で一番可愛くて愛らしい俺の妹ナナリーを、男どもが放っておく筈がない！可憐な寝姿を視界に収めるだけでも万死に値する！男という生き物は、下衆な妄想で女性を辱めるものなのだ！つまりナナリーも・・・ああっ！何でっ、何でこんなことにっ！！ナナリーが、妄想とはいえ穢されてしまう！！
ああくそ、これはスザクのせいだ！
全部あいつが悪い！
馬鹿スザクが連れて帰らないのが悪いんだ！
お前、ちゃんと責任取れよ！！

・・・ああ、もういい。
考えるだけ馬鹿馬鹿しい。
俺が、ナナリーを守る。
誰かに任せるだと？はっ、ありえないな。

となると、何も触れない今の状況はよくないな。よし、色々と試して、せめて物を動かせるぐらいにはなろう。そして、仮面の男・ゼロだというのに、あっさりと仮面を外して、未成年でありながら進められるままに酒を飲み始めたあの馬鹿に仮面をかぶせてやる。
密葬と言う形のため、ここにいる面々はゼロの正体を知る者たちだ。
・・・正体を知らないはずの生徒会メンバーもいるが、スザクが仮面を外し、遺影にゼロがある時点でバレバレで、彼らは何処か納得したような顔で酒盛りに加わっている。
・・・ん？加わって・・・だと？

「だから、未成年ろお前ら！何平然と口にしている！藤堂、止めろ！乾杯じゃない！止めろと言ってるんだ！まて、スザク！焼酎を一気飲みするな！・・・は？な、ナナリーに飲ませるなスザアァァァク！！ナナリーの成長に悪影響が出たらどうするつもりだ！！こら！聞けスザク！！」

どれほど叫ぼうと声は届かない、どれほど邪魔をしようとしても手は何も掴まない。ただ疲労だけが溜まっていく。
・・・おかしなものだ、すでに肉体を失った幽霊だというのに、疲れを感じるとは。
一頻り叫んだルルーシュは、疲れた顔で一旦休憩を取ることにし、辺りを見回した。
・・・気づきたくなかったことだが、残念なことだが・・・非常に残念なことだが、先程より人が増えていた。その面々に、思わず顔がひきつってしまうのは仕方が無いだろう。

「・・・何なんだこの状況は」

スザク・ロイド・セシル・咲世子・ジェレミア。
ミレイ・リヴァル・ニーナ。
カグヤ・カレン・藤堂・玉城・南・ラクシャータ、星刻に天子までいる。
ナナリー・コーネリアやギルフォード・・・まて、どうしてシュナイゼルまでいるんだ？大丈夫なのかブリタニア。今が一番忙しい時じゃないのか？
パパラッチが来たらどうするんだと心配し辺りを見て回ったが、どうやら厳重すぎるほどの警備態勢が引かれているらしく、ゼロの正体を知るもの以外は入れないようだ。この周辺はきっちりギアス兵が固めていた。
・・・いいのか？こんなことにギアス兵使って。
第一ここは日本・・・まあシュナイゼルが許可したんだから、どうにかしたんだろう。そんな状態だからスザクも仮面を外せる訳だが・・・って、駄目だからな本来は！ゼロの中身は極秘なんだ！スザクも死んだことにしてるんだから、気付かれていても駄目だったんだ！ロイドたちはいいが、カグヤ達は駄目だっただろう！
・・・まあ、今更言っても仕方がないか。
スザクにそこまでの重荷を背負わせるわけにはいかない。
正体を知る者たちの前では、素顔をさらすのは許すべきか。
色々と疲れたルルーシュだったが、どうにか物を動かそうと遺影で練習を繰り返したが、結局動かす事は出来ずに時間だけが過ぎて行く。
酔っ払いたちは早々につぶれ、ナナリーはコーネリアとギルフォードががっちりと護っていたため事なきを得た。スザクはザルだったのか酔っぱらうどころか、顔色一つ変えずに、呆けた顔で遺影を見ている。ナナリーに色目を向けていた南は、皆が酔いつぶれ始めた頃にスザクの手で外の木に吊るされた。ナナリーの騎士としての役割を人知れず行っている所は流石スザクだ。

科学者たちと藤堂、ジェレミア、スザクによってお通夜は順調に終わり、翌日、二日酔いで蒼い顔をした面々の前でお経が読まれ、ようやく火葬の段階まで行った。
そこまで進むと、皆の顔に笑顔も戻り、なにやら吹っ切れたような顔になっていた。
葬式は、死者のためではなく、残された者のために行うものでもある。
なかなか受け入れることの難しい、親しい者の死を受け入れるための儀式。
後わずかでこれらも終わり、彼らは僅かな遺骨を手にし、ここを去るだろう。
それで、終わりだ。

自分の死を受け入れる事が出来ないから、成仏できないのかもしれないと、棺と共に焼却炉へと入り、自分の体が燃えて行くのを眺めていたルルーシュは、相変わらず成仏する気配のない我が身の振り方を考え始めた。